職人とのチームワークでつくる「京鹿の子絞り」の絞り染め技術。老舗メーカー・藤井絞さんに伺いました

[特集・取材]

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最終更新: 2018/02/04

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最終更新: 2018/02/04

 

しばって、挟んで、染料につける…ひたすらその作業を繰り返してできる”絞り染め

着物を着る人だったら、1度は触れたことがあるのではないでしょうか?立体感のある絞り染めは振袖となると豪華ですし、小紋などの普段着にも、絞り柄が散りばめられていることもありますね。

今回は、京都の伝統工芸品、京鹿の子絞りのメーカーである藤井絞株式会社社長・藤井浩一さんに、絞り染めのこと、京鹿の子絞りの特徴などを伺いました。

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藤井絞社長・藤井浩一さん

 

染めの着物・絞り染めとは

絞り染めのルーツ

もともとは、インドやアフリカで自然発生的に2000年前に布に柄をつける技法として発展したことに起源がある、世界で一番古い染色技術と言われています。そこからシルクロードを渡って日本にやってきたのは、今から1300年前の奈良時代のこと。

正倉院には、絞り染めを施された生地が残されています。

奈良時代に伝わった染色技術”天平の三纈(てんぴょうのさんけち)

絞り染めが日本に伝わった奈良時代には色々なことが中国からやってきました。染色技術については、臈纈(ろうけち)夾纈(きょうけち)、纐纈(こうけち)の3つが伝わり、これを「天平の三纈」と呼びます(纈(けち)というのは、「絞り染め」という意味)。

①臈纈(ろうけち)…蝋(現在のろうけつ染め)
②夾纈(きょうけち)…夾(「挟む」の意味)
③纐纈(こうけち)…纐(「しぼる」の意味)

現在では、②と③にあたる技術が絞りと呼ばれるもので、糸で布を括って柄をつける技術、染料につけたときに色が入らないように防染して絵を表現する技術を「絞り」と呼んでいます。

絞り

 

下絵が必要なほど精巧な技術、京鹿の子絞り

絞りの着物は見た目も柄も独特なので、あまり着物に馴染みのない人でも見てわかる生地が多いかと思います。絞りといえば愛知県の有松絞りは、浴衣で良く目にする代表的な絞りの生地ですね。

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有松絞りの浴衣は一枚はほしい憧れ浴衣の一つではないでしょうか

京鹿の子絞りと有松絞り何が違うのか藤井さんにお伺いさせていただきました。

 

「有松絞の歴史は今から400年前くらい。江戸時代の参勤交代によって日本全国と江戸の間で大規模な人の移動が起こりましたよね。このときに豊後(今の大分県)の人が、宿場町であった有松に絞りの技術を教えたのが始まりと言われています。旅の途中のお土産として発展していったので高価な絹ではなく木綿に絞りを施しました。

対して、京鹿の子絞りは基本的には絹に対して柄付けを行うものが多いです。そして下絵を描かいてそれを忠実にどう絞るのかを考えていくというのが大きく異なることです。」(藤井さん)

 

なるほど、歴史を紐解くと発展の仕方が異なるようですね。でも、下絵が必要な柄とは、見た目の違いがそんなにあるのでしょうか?実際の製作工程を見てみると、下絵がなくては描けない、京鹿の子絞りの精巧な作りがわかります。

 

絞り染め|京鹿の子絞りの製作工程

下絵とは、柄をしばるところに描かれる目印。下絵のあるなしで何が異なるのか、実際に作り方を教えて頂きました。

京鹿の子絞りの製作工程①:本青花で下絵を描く

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これが下絵を引いた生地。本青花(ほんあおばな)という水につけると消える青い染料で描いてあります。よく見ると、柄が点と棒線で描かれているのがわかりますか?この線の太さや形の違いで、絞り方を見分けています。点だけ括る職人、棒線部分を括る職人、それぞれ別々の人によって分業されているのだそうです。

 

京鹿の子絞りの製作工程②:絞り完了

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右が、すべての下絵の絞りの作業が完了したところ。布を括ると半分くらいの大きさになってしまうんです。

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この生地には、疋田(ひった)絞り、針疋田絞り、一目(ひとめ)絞りの3種類で括られています。ひと目ずつ、絞りが細かいので、下絵の青い線は見えなくなります。

 

京鹿の子絞りの製作工程③:帽子絞り・染めたくないところをビニールで覆う

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後から色を入れるために、染めたくないところをビニールで覆います。これを帽子絞りといいます。見た目どおり、頭にかぶる帽子のように、染めたくない箇所を覆います。こちらの写真では工程が省かれていますが、この覆った箇所には既に黄色が染められています。

 

京鹿の子絞りの製作工程④:染料につけて染める

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③を緑色の染料に浸して染めます。帽子絞りを施したところは染まっていませんね。

 

京鹿の子絞りの製作工程⑤:さらに他の色を染める

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④のみどり色の残したいところを更にビニールで覆う(中帽子絞りと言います)。染めたみどりを一度抜いて、地色となる紫を染めます。

 

京鹿の子絞りの製作工程⑥:桶絞り

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桶絞りとは、その名の通り桶に蓋をして染める技法。染めたくない部分を桶の中に、染めたい部分を外に出します。蓋を固く締めて、桶のまま染料に漬けます。

 

京鹿の子絞りの製作工程⑦:完成

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⑥で染めたのは、上下にある雲の柄の部分。それぞれ色が異なるので、桶絞りを2回行っています。最後に括った糸やビニールを解いていけば、絞り染めの完成です。

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絞って、染めて、絞って、色を抜いて、染めて…。絞る職人、染める職人と、いろいろな人の手を渡って作られる、技術とチームワークが必要な技術なのですね。

 

職人による分業だからできる、10点満点の着物

先程の京鹿の子絞りの工程を解説する中で触れていますが、京鹿の子絞りは”分業”というスタイルをとっています。ですが、今世の中に溢れている色々な商品が、「自社で一括生産しています」という謳い文句で、価格を安くスピーディーに提供するのが主流なような気がします。分業だから優れていることとは何なのでしょうか?恥を承知で伺ってみました。

 

「分業の一番のメリットは名人度が高い商品ができるということ。絵もかける、括りもできるとなると、あれは6点、これは8点…と一つ一つの作業に偏りができますが、分業はすべての工程において10点満点の技術だけで出来上がる、卓越した商品ができあがるということです」(藤井さん)

 

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藤井さんの役割は、職人さんの間に入り、着物をつくるプロデューサー。生き生きと作業をする職人さんとの打ち合わせは楽しそうでした。

 

もちろん、誰か1人が欠けたらできなくなる技術もあったり、商品の単価が上がってしまう。それでも誰にも真似のできない世界に一つだけの商品を作り上げるのが、職人なのでしょう。

さらに、職人の間に入る藤井さんのようなメーカーが、次の職人が何をすればいいのか、どうしたらデザイナーが起こした柄がイメージどおりに出来上がるのかを伝えなけれ京鹿の子絞りは完成しません。分業とは職人だけでは完結しないのですね。

メーカーやデザイナーなど様々な人の手を通して作られた京鹿の子絞りの着物に、いつか袖を通してみたいですね。

 

藤井絞公式HP

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